【突針王】キツツキ
或るところに流浪のサムライが居た。様々な土地に現れては、瞬く針の離れ業で、名だたる剣士や或いは龍を次々打ち貫き、討ち果たしていく。いつしかその名は広く伝わり、その妙技から、人々はサムライの事を「キツツキ」と呼ぶようになった。キツツキに挑む者は昼夜を問わず現れたが、決して隙を見せること無く、それらの全ては打ち負かされた。と、そんな中、キツツキの元に異国風情の男が現れる。彼は言った。海の彼方の西の大地に、貴方より疾い「がんまん」が居る、と。

【衝針王】キツツキ
自前の椀にて七十五日。ようやく「西の大地」に辿り着いたキツツキは、早速手厚い歓迎を受けることとなった。囲むは五人の「がんまん」たち。それらが銃を抜いた瞬間、目にも止まらぬ疾さの針が、全ての銃の口を打った。たまらず銃を落とす五人。すると今度は、拍手と共に一人の女が姿を現した。女は自身を「まりあんぬ」と名乗り、キツツキをある男の元へ案内するという。噂に名高き伝説のがんまん、「どん、ぽるた」との闘いが、そうしてついに幕を開ける。

【忌姫王】ききょう
その城には、開かずの座敷が一室あった。家臣はおろか城主すら、年に数えるばかりしか、その間を訪れようとはしない。果たして彼らは恐れていた。其処に住まいし一人の姫を、己らが封じたその力を、彼女が手にした「うちでのこづち」を。即ち、姫が願った事や物を、手にした小槌が全てを叶える、或いは叶えてしまう、事を。ゆえに彼女は閉ざされていた。隠す為でも、漏れ出ぬようにする為でも無い。全ては姫から奪う為。彼女がこの世の知と理と愛とを、知らぬがままに逝く為に。

【鬼姫王】ききょう
獣も寄らぬ山の果て、人里離れたその城に、げに恐ろしき鬼が棲むという。鬼はその手の小槌を振るい、あらゆる者の願いを奪うと云われ、誰一人として城に近づく者はいなくなった。そうした噂が風に乗り、やがては逆に、鬼の首を討ち取らんとする者たちが現れるようになった。名だたる武芸者、或いは術者、それらが群れ成し城を襲う。だがしかし、誰一人として城に達する者は無かった。逃げ還った者の言に拠れば、行く先阻むは鬼では無く、たった一羽の啄木鳥だったと云う。