【籠王】シェルツ
王国に伝わる伝説の聖剣を引き抜いたシェルツは、しかしその栄誉を素直には喜ぶ事が出来ないでいた。なぜなら聖剣を手にした者は、皆例外無く非業の末路を遂げていたからである。不安な日々を送るシェルツ。そんな彼の感情を汲み取ったのか、持ち主によって姿を変えるという聖剣は、やがて彼の全身を護る一つの鎧の形を成した。
【籠鎧王】シェルツ
聖なる鎧に護られることで自信を取り戻したシェルツは、それからの目覚ましい活躍により、王女警護の任を国王から賜ることとなった。実力と名誉、その何れが欠けても任されぬ大役に、またもや心が縮こまる彼であったが、幸いにもそんなわい小な心象を、新たに彼の主となったイザベラは気にも留めない様子であった。
【白鎧王】ダンデリオン
その巨体を活かし、巨大な鎧と機砲を自在に操るダンデリオンは、数多のドラゴンを打ち倒す騎士団一の強者であると同時に、王都一の優しき心を持つ男であった。その優しさたるや、西に泣く赤子あれば行って止むまであやしてやり、東に疲れた老婆あれば行って家まで送り届けてやるほどであり、王都一の優しさは伊達では無いと評判であった。しかし、ダンデリオンは知っている。真に王都一の優しき心を持っているのは、彼では無く、彼の親友であると。
【輝鎧王】ダンデリオン
ダンデリオンは幼少の頃より体が大きく丈夫であったが、しかしその成長の度合いが異常であった。やがて体は人のそれとは思えぬほど異様に巨大なものとなり、いつからか周囲の者の視線も変わった。その視線、また心優しき両親が心を痛める事に耐えられなくなったダンデリオンは、城下の外れの橋の下で一日を過ごす事が多くなる。と或る日、一人の青年が彼に声をかけた。河に財布を落とし途方に暮れているという彼、シェルツとダンデリオンの生涯の友情はそこより始まる。
【砕鎧王】シェルツ
蒼き憤怒を纏いし刃が、容赦の欠片の一片も無くシェルツの頭上へ振り堕とされる。かざす剣にてそれを受け、地に着く足は岩畳を砕く。「災厄」に呑まれた王都城下。その一角にて二人の剣士は対峙していた。双方、鎧に身を包み、互いの形貌は計り得ない。しかしシェルツは、対し交えるその剣筋に、僅かながらの覚えがあった。そして同時にそれは彼の、忘れ得ぬ羨望の記憶へと触れる。やがて再び打ち鳴り合う、双つの剣。狂い乱れるほどの剣戟が、二人の心を叩き、砕く。
【灼鎧王】シェルツ
映る地平の彼方までが、燃える炎で埋め尽くされる。世界を襲った「災厄」とも言うべきその光景を前に、シェルツは己が責務を果たすべく、王都城下を奔走していた。その剣で救うべき、焼かれ悲声をあげる者、瓦れきに潰され血を吐く者、竜に喰らわれ救いを求める者。目にするそれらの悲痛な情景、全てを其処に置き去りにし、彼はそれでもひた走る。幽閉されし忠義の矛先、ただそれのみへと向け、己が心を灼きながら。
【喪鎧王】シェルツ
夜が、明ける。「災厄」により全て灼け果て砕かれた王都に、眩い朝の陽の光が射す。その一筋に照らされ浮かぶ、独りの少女の姿。崩れた瓦れきを背にもたれ、もがれた四肢と射抜かれた肺、あるいは半分喰らわれた心臓を晒し、あるいは遺った片方の眼が、地とも虚空とも呼べぬ場を、白く見つめる。それはもう二度と、決して交わる事の無い視線。そしてシェルツの心は音も無く壊れ、身に纏った「聖剣」は音を立て剥がれ堕ち、彼の元を去った。
王国に伝わる伝説の聖剣を引き抜いたシェルツは、しかしその栄誉を素直には喜ぶ事が出来ないでいた。なぜなら聖剣を手にした者は、皆例外無く非業の末路を遂げていたからである。不安な日々を送るシェルツ。そんな彼の感情を汲み取ったのか、持ち主によって姿を変えるという聖剣は、やがて彼の全身を護る一つの鎧の形を成した。
【籠鎧王】シェルツ
聖なる鎧に護られることで自信を取り戻したシェルツは、それからの目覚ましい活躍により、王女警護の任を国王から賜ることとなった。実力と名誉、その何れが欠けても任されぬ大役に、またもや心が縮こまる彼であったが、幸いにもそんなわい小な心象を、新たに彼の主となったイザベラは気にも留めない様子であった。
【白鎧王】ダンデリオン
その巨体を活かし、巨大な鎧と機砲を自在に操るダンデリオンは、数多のドラゴンを打ち倒す騎士団一の強者であると同時に、王都一の優しき心を持つ男であった。その優しさたるや、西に泣く赤子あれば行って止むまであやしてやり、東に疲れた老婆あれば行って家まで送り届けてやるほどであり、王都一の優しさは伊達では無いと評判であった。しかし、ダンデリオンは知っている。真に王都一の優しき心を持っているのは、彼では無く、彼の親友であると。
【輝鎧王】ダンデリオン
ダンデリオンは幼少の頃より体が大きく丈夫であったが、しかしその成長の度合いが異常であった。やがて体は人のそれとは思えぬほど異様に巨大なものとなり、いつからか周囲の者の視線も変わった。その視線、また心優しき両親が心を痛める事に耐えられなくなったダンデリオンは、城下の外れの橋の下で一日を過ごす事が多くなる。と或る日、一人の青年が彼に声をかけた。河に財布を落とし途方に暮れているという彼、シェルツとダンデリオンの生涯の友情はそこより始まる。
【砕鎧王】シェルツ
蒼き憤怒を纏いし刃が、容赦の欠片の一片も無くシェルツの頭上へ振り堕とされる。かざす剣にてそれを受け、地に着く足は岩畳を砕く。「災厄」に呑まれた王都城下。その一角にて二人の剣士は対峙していた。双方、鎧に身を包み、互いの形貌は計り得ない。しかしシェルツは、対し交えるその剣筋に、僅かながらの覚えがあった。そして同時にそれは彼の、忘れ得ぬ羨望の記憶へと触れる。やがて再び打ち鳴り合う、双つの剣。狂い乱れるほどの剣戟が、二人の心を叩き、砕く。
【灼鎧王】シェルツ
映る地平の彼方までが、燃える炎で埋め尽くされる。世界を襲った「災厄」とも言うべきその光景を前に、シェルツは己が責務を果たすべく、王都城下を奔走していた。その剣で救うべき、焼かれ悲声をあげる者、瓦れきに潰され血を吐く者、竜に喰らわれ救いを求める者。目にするそれらの悲痛な情景、全てを其処に置き去りにし、彼はそれでもひた走る。幽閉されし忠義の矛先、ただそれのみへと向け、己が心を灼きながら。
【喪鎧王】シェルツ
夜が、明ける。「災厄」により全て灼け果て砕かれた王都に、眩い朝の陽の光が射す。その一筋に照らされ浮かぶ、独りの少女の姿。崩れた瓦れきを背にもたれ、もがれた四肢と射抜かれた肺、あるいは半分喰らわれた心臓を晒し、あるいは遺った片方の眼が、地とも虚空とも呼べぬ場を、白く見つめる。それはもう二度と、決して交わる事の無い視線。そしてシェルツの心は音も無く壊れ、身に纏った「聖剣」は音を立て剥がれ堕ち、彼の元を去った。